ネムリユスリカの極限環境適応へ寄与した染色体レベルのゲノムの偏り

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Invited talk for the Symposium “ゲノムの場”の不均一性が駆動する遺伝子進化. 吉田祐貴, Richard Cornette, Oleg Gusev, 黄川田隆洋, “ネムリユスリカの極限環境適応へ寄与した染色体レベルのゲノムの偏り”

Abstract

ユスリカ(Chironomidae; Diptera)は幅広い環境に生息することが知られているが、他の昆虫が生存できないような環境にもいくつかの種は耐えることができる。特にネムリユスリカの幼虫は乾眠状態に移行することでほぼ完全な乾燥に耐えることができる。ユスリカの染色体数は他のハエ目の種に比べて多く、このような余分なゲノム資源は新しい環境への迅速な適応を促進する可能性がある。そこで染色体レベルでの適応進化を解析するため、我々はネムリユスリカの染色体レベルのゲノム配列をアセンブルした。ハエ目の生物との比較ゲノム解析により、極端なGC含有量の偏りや変異の蓄積、そして乾眠遺伝子の多重重複など、第4染色体の特殊性が明らかとなった。この染色体では急速な新規遺伝子の獲得、乾眠遺伝子のパラログ間での機能多様化、そしてマルチコピー遺伝子の偽遺伝子化などの特性が見られた。これらの結果から、この第4染色体は進化実験の「砂場」のような役割を果たしていることが示唆され、過酷な環境への迅速な適応を促していると考えられる。本発表ではユスリカの適応進化に第4染色体の特殊性がどのように貢献しているかについて議論する。